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『4.48』

静岡舞台芸術公園 BOXシアターにて

Boxシアターって面白い空間だなあ、と改めて思う。
色々な使い方が出来るしなんといっても奥行きがある(物理的な意味じゃなくて)。
演劇にでも、ダンスにでも、きっと音楽にでも。なんでもござれな懐の深さ。
しかしその闇の深さにはいつも飲まれる。

さてさて、スン・シャンチー振り付けの『4.48』は、そのタイトルからもわかるひとにはわかるようにあのサラ・ケインの遺作『4:48 サイコシス』をもとにしているわけだ。初めてあれを読んだときには、私も演劇よりも小説、小説よりもダンス向けだとおもった作品だったし、事実ダンスをとりいれている演出を幾度か見たことがあるのだけれども、本格的に『ダンス作品』として仕上げているのを見るのは初めてで、そのことに興味ひかれてこれだけを観に静岡へ。日曜なので行きはヨイヨイだが、帰りは恐ろしい大渋滞にはまる。我ながらモノズキである。いいのだ。べつになんと呼ばれようと。

幕あけすぐに『女優』が喋り始めた。とうとうと迸る言葉。そうだとも、『言葉』なくしてはサラ・ケインたりえない。いくらダンス作品とは言っても。
言っちゃえば演劇とダンスの境目ってとくにないのかもしれない。
演出家が作れば演劇で、振付家がつくればダンス、というくらいのものなのだろう。
(大きな違いだと思うかどうかは人次第だ。)

それにしてもすごいのはスン・シャンチーの肉体。
女優の足元でうずくまっていたときには冴えない東洋人(失礼)にしか見えなかったのに。彼の長い手が空を切り裂くたびにそこから血が流れるようだ。サラの言葉に匹敵していたのは彼の肉体だけだった。

結局、好き嫌いで言えばこの作品も全体としてあまり好きにはなれなかったのだけれども、
(それはたぶん、サラの戯曲『4:48サイコシス』に対して抱く気持ちとあまりかわらない)
終始一貫した強靭さがあって楽しめた。
アフタートークで読まれたアンケートのように『救われた』という人がいるのは意外。
あれをどのように観たら、今まで自分が棲んでいた世界が美しかったのだ、と過去形で思えるのだろう。
それはよほどこの世を憎む理由をもった人間にのみ与えられる恩寵みたいなものなのだろうか。

まだまだ修行が足りんですな。。。
by uronna | 2010-06-06 22:56 | 劇評、書評、映画評

復活。


by kawasaki Alice