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ナイン the Musical

11月3日(水)

天王洲アートスフィアにて、「ナイン」を観劇。

演出家のデヴッド・ルヴォーはこのミュージカルを「この25年に書かれたミュージカルの中で最も独創的で大胆な作品」と語る。登場人物は映画監督グイード・コンティーニとそれを取り巻く女たち。タイトルのナインは、天才としての人生を追い求めたグイードが、9歳という年齢で実質的な心の成長を止め、その天真爛漫さで女たちを虜にしていった男として描かれることによる。

映画監督・フェデリコ・フェリーニが60年代に制作した映画「8 2/1」は、まさにフェリーニ自身の創作の苦悩と、女性に対する強い関心を示している。これにインスピレーションを得たモーリー・イエストンとアーサー・コピットが舞台に描き出したのが、この「ナイン」だ。既存のミュージカルの枠を超え、ミュージカルで一体何が表現できるのか、という問題に正面から挑戦したようなこの作品は、セオリーどおりにロンドンからブロードウェイへ渡り、アントニオ・バンデラスの熱演で熱狂的な支持を受け、1982年トニー賞の最優秀作品賞に選ばれた。

それから20年以上を経た今、日本で、ルヴォーが演出する「ナイン」がどのような色彩と世界観を私たちの前に展開してくれるのか。それには非常な興味があった。しかも制作はTPTということで、知っている人も多く関わっている。これは見ずにはいられない。

キャストは、グイードに福井貴一さん。彼はレミゼにも出ていたり、演技力と歌唱力は確かにあるのだが、どうにも「色気」がない。あれだけの女性たちの心に常時出入りしていた男には到底見えない。小さいのだ。ルヴォーの演出が例によって美しく、完璧に近かった分だけ、あとから考えるにつけこの舞台の不満は、彼に凝縮されてしまうような気がしてしまう。
リトル・グイード役の少年の方がよっぽど色っぽく見えてしまうのが不思議だ。

グイードを取り巻く女性たちで、特筆すべきはリリアン役の大浦みずきさんと、スパのマドンナ剱持たまきさん、それから天井から落ちてくる女の子(役名不明です、すみません)。
他は、うーん。。。スターシステムを使わず、公平なオーディションで選んでいるのだからよっぽど、新しくってはっとするような才能に出会えるかと思っていたのだが、目立つのは宝塚の古株ばかり、ではなんとも淋しい。

ルヴォーの演出はやはり壮大で美しい。
とらえどころもない、それでいて男を魅了してやまない女性の「性」というものにとりつかれ、愛し、愛され、利用し、利用されて、その美しさを映像化するために精神を病むまでの情熱を注ぐ。目に見える「映画」という作品の中に描ききれない女性たちへの甘く、熱く、優しい想いがグイードの存在そのもに凝縮されている。

螺旋階段を下りてくる女性たちは、グイードの信じている至上の楽園から、彼を愛しにやってくる。イタリアのスパは、女たちへの追憶そして彼自身の幼少期の記憶をよみがえらせ、尽きせぬ男女の関係を世の中に送り出す「産湯」である。そして男たちが求めてやまない「癒し」の水が、なみなみと湛えられた場所。巨大な壁画の描かれたタイルを伝って水が舞台を侵食する様は、流れてしまった母親の羊水を恋しがるグイードの涙のようでもある。

この舞台に空席が目立つのは惜しいことだ。
もし時間があれば、是非劇場に出向いてルヴォーの「ナイン the Musical?」(←「?」をあえてつけたい、この一風変わったミュージカルは日本人の「ミュージカル」の認識を少しだけ変えてくれそうな気がするので。)を見ることをお勧めする。
by uronna | 2004-11-03 17:01 | 劇評、書評、映画評

復活。


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