人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ベケット・ライブVoil6 「クァクァ」

2月4日(金)
 「劇」小劇場にて観劇。

 こちらは、いつもお世話になっている演劇集団円の演出家阿部初美さんの演出による、ベケット後期の作品の舞台化。主演女優の鈴木理江子さん本人のプロデュースによる「スリーポイント」では、99年以来ずっと、ベケットの作品を扱ってきたそうだ。パリのルコックで学び、転形劇場で活躍してきたりえこさんの舞台、大田省吾さん演出の「水の駅」の映像は見せていただいたことがあるけれど、こうしてライブで観るのは初めて。とてもわくわくしていた。

 下北に着いたのは結構早かったのだけど、大好きなVillage Vanguardに寄っていたらギリギリの時間になってしまった。この町は本当に人に「時間」の概念を忘れさせる。(2月1日の項参照)

 舞台はシンプルな作りで、中央に台本が下がっている。そうか、やはりリーディングという形でやるのかな?と思う。上手奥にはテレビモニタがつながり、りえこさんと井手みなこさん、本日の出演者ふたりが「イチニ、イチニ」と走っている映像。来ているのはそろいのジョギングウェア。舞台の中央にはスケートボード。なるほど、これで役者に地を這わせるつもりか?と思った瞬間にわくわく度が急上昇した。

 構成は「ピム以前、ピムと一緒、ピム以後」の3部に分かれている。
「事の次第」初めて読んだ時はとても疲れて一気に読むことは出来なかったが、この果てしない概念の小説を、どのように舞台に乗せるのか、興味はそこに集中する。たとえ阿部さん、りえこさんが関わっていなくても、きっと観に行ったことだろう。そのくらいベケット後期の作品を舞台化するという試みは意欲的で建設的なものだと思うのだ。
 しかも、今回はドラマトゥルグの長島確さんが関わっているそうな。実は初めてお会いするが、日本ではまだなじみの浅いドラマトゥルグというものの可能性を考えるためにも、この舞台はいい指標になるのではないか。

 結果的に、りえこさんとみなこさんの発声がまったく異なることに煩わされてしまった。この芝居、できれば一人芝居でみたかった。ピムと一緒のところなんか、一人芝居でどんなに面白い見せ方ができただろうかと考えると逆に思考が広がりすぎるくらいだ。たとえば、袋とか、たとえば、うたとか言葉とか、ベケットの作品の中にちりばめられた記号を拾うことはきっととても丁寧に、時間をかけて手を抜かずにやってきたのだろう。(女優と、演出家が頭がいい人
である上にドラマトゥルグがついているのだ。この点鬼に金棒である。)しかし、客の感受性のアンテナがいまどちらを向いているか、そのことを理解し、舞台の上に載せる役割は誰かにふられていたのだろうか?

 クァクァ、というタイトルは、あるときは主人公の外界から、あるときは内側の世界から聞こえてくる何者かのなき声。とてもうまいタイトルだと思う。生まれる前の人間、生れ落ちてからの人間、そして死んでいく人間、彼らの心の叫びは「クァクァ」。どんなだったか?どんなだったか。それを見せるのがこの舞台。難解ではあるけれど、舞台を観に行く理由のひとつに「新しいものがすきだから」と言う人が居れば、是非見てもらいたい。

 これは、本当に人間の想像力の補える範囲の調査記録とでもいうべき、ベケットの作品であって、それ以上でもそれ以下でもない。一枚ずつ、応酬した言葉の堆積を創っていく演出、光がもっと工夫されていればとても美しかったことと思います。

お疲れ様でした!公演後あえなくて残念だったのですが。。。(>阿部さん)
 
 
by uronna | 2005-02-04 23:45 | 劇評、書評、映画評

復活。


by kawasaki Alice