『散歩』

長田弘

 ただ歩く。手に何ももたない。急がない。
気に入った曲がり角がきたら、すっと曲がる。
かがり角を曲がると、道の先の風景画くるりと
変わる。くねくねとつづいてゆく細い道もあ
れば、おもいがけない下り坂で膝がわらいだ
すこともある。広い道にでると、空が遠くか
らゆっくりとこちらにひろがってくる。どの
道も、一つ一つの道が、それぞれにちがう。
 町にかくされた、みえないあみだ籤の折り
目をするするとひろげてゆくように、曲がり角
をいくつも曲がって、どこかへゆくためにで
なく、歩くことをたのしむために街を歩く。
とても簡単なことだ。とても簡単なようなの
だが、そうだろうか。どこかへ何かをしにゆ
くことはできても、歩くことをたのしむため
に歩くこと。それがなかなかにできない。こ
の世でいちばん難しいのは、いちばん簡単な
こと。

長田弘:福島県福島市生まれの詩人。
代表作に『深呼吸の必要』。
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by uronna | 2008-04-05 10:23 | Shisaku

復活。


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