ソラソバ学習帳

TPT「シカゴの性倒錯」「カモの変奏曲」を観る

8月29日(日)

今日は稽古OFF。
なので、昨日観たTPTの芝居についての劇評を書こうと思う。
「シカゴ・・」の方は7月にWSで使った本ということもあり、かなり楽しみにしていた。同い年の演出家アリ・エデルソンがどんな風にあの本を料理したのか。
「カモ・・」は木内宏昌さん演出。彼は今「斑女」の演出にアドバイザーとして入っている人だ。いずれにしても少々難解なデビット・マメットの世界をTPTが如何様に表現するのか、注目度は高い。

始めは「カモ」だった。
これは男優による二人芝居。松本きょうじさんと山本亨さん。
カモの一生を主軸に語られる、人間の生き様、文明社会の理不尽さと生き死にというテーマ。ゴールドベルグ変奏曲に併せて、言葉が変奏曲のように紡がれていく。
この男たちは何者なのか、イースター近くのアメリカの湖畔の都市で、なぜカモの一生についてこんなに語るのか。そこでは、アメリカ社会に生きる人間が共有している「社会の膿」のような問題がある。人間によって解決することがもはや不可能になったそれらの問題を、カモの話をしながら午后を過ごす男たちに語らせることで、救済のなさ、結局は逃れられない「生きとし生けるものが迎える死」への行進曲を観客に聞かせている。それは言ってみれば「ゴドーを待ちながら」と同じ構図を持っている。片方の男は煙草を幾度となく口に運ぶが、ライターがない。もう一方の男の煙草は尽き、仕方なくライターを空しく片手に弄ぶ。友人である二人は最後に顔を見合わせ、片方はついに相手がくわえた煙草に火をつけようとしてやるが、そのオイルは既に切れており結局煙草には火がつかない。所詮は人生はそのようなものなのだ、と「死にかけている社会」のすれ違う様を、マメットはうまく書いている。

 演出はごくスタンダードなものであった。作家の言いたかったことを観客に伝えられたかどうかといえば、それは「否」だろう。ほとんどの観客は変奏曲仕立てのこの戯曲の問いに、戸惑いながら50分を過ごしていたように思える。観客の側にも、共有される社会への問題意識がなければこの舞台は成り立ちにくい。もう少し突っ込んで、「日本人」にマメットの世界を見せる努力をして欲しいところだ。

さて、「シカゴの性倒錯」だ。
こちらは、同じセットを使っているにもかかわらず動きのある、スタイリッシュな演出であった。男優は「カモ」と同じ。女優二人が新たに登場するが、レズの女教師ジョウン役に小山萌子さん、劇中で山本亨さん演じるダニーと恋に落ちるデボラ役に真中瞳さん。ダニーのセックス師匠、猥談大好きのバーニー役に松本さんである。
アリは、脚本に忠実な演出家である。私の持っている本と台詞が異なっている箇所がいくつかあるのは、アリが帰国してから役者が変えたのだろう。解りやすくする為に。そのお陰かどうか。大分理解しやすい内容になってはいた。

テンポもいいし、役者の表現も面白い。観客は「カモ」の時よりも遥かに楽しんでいた。まあ、それは仕方がないだろう、扱っているテーマは「死んでいる社会」という同じものであっても、カモは「自然と人間の関係を中心に据えた不可能性」から、シカゴは「男女の関係を中心にした不可能性」からえぐり出そうとしているのだから、それはどうしても後者の方が軽妙で滑稽なものになる。

マメットが「言葉の戦士」という異名をとっていたのを、肌で知ることができるアリの演出の方が、遥かにマメットの世界を描き出すのに有利だったということも忘れてはいけない。役者の演技は楽日前日ということもあり、パワーも精度も申し分のないものだった。真中さんも、雑な動きが多いことを除けば、単なる「客よせ」以上の演技はしていた。アリは駄目だしをしない演出家なのだが、それが効を奏したのかもしれない。

 TPTの挑戦は続くのだろう。今回は総合的に「出し切れていない感」が強かったが、アメリカ社会の倦怠感を持ち込んで、やがてやってくる問題意識として多少なりとも日本の観客に印象づけた功績は決して小さくない。
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by uronna | 2004-08-30 00:37 | 劇評、書評、映画評

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