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サラは富士山をみたことがない

12月2日(木)
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秋は相当深まっている。

学校の行きかえりで通る利根川沿いのサイクリングロードを、あったかいコートと手袋に身を包んで疾走するインディアンサマーのある日。

アートパスで発表する「4時48分サイコシス」も大詰めに差し掛かってきている。
はじめめちゃくちゃだと思っていたサラ・ケインのテキストが、誰でもがなるほどと腑に落ちる点を数多く内包したものであると思うにつけ、愛着まででてくるのだから不思議なものである。人はそう簡単に死を選べない。彼女は死を選んだのではなく、戦った結果死んだのであった。

11時から始まったミーティングは長引き、気がつくと4時をまわっていた。
なんとかまとまりつつある演出プランを胸に抱えながら、夕暮れのサイクリングロードを帰る。進行方向に沈んでいく夕陽をいつものように眺めていたが、そこに今日は富士山がいた。
いままでも、たまに見えたことはあったけど、こんなにくっきりと大きく富士が見えたことはなかったと思う。とにかく壮観で、思わず自転車をとめてしまう。
周りを見ると、ジョギング中の人や、デート中の高校生、近所からわざわざカメラを持ってでてきた人などで、河原はけっこう賑わっている。

つるべ落とし。
あっというまに太陽はいなくなったけれど、富士山は金星が瞬き始めてもしばらくはそこに佇んでいた。その左右均等なシルエットに思わずため息が出る。やはり完璧な美しさは自然の中にしかないものなのか。
太宰ではないが、これを手放しでほめてしまっている自分が妙に気恥ずかしくなる、もうどうしようもない景観であった。

イギリス人のサラにとっては、見ただけで心が癒されてしまうような「風景」は存在していたのだろうか。「サッチャーの子供たち」は、そんな心象風景すら生まれた時からもつことを許されなかったのだろうか。
by uronna | 2004-12-03 19:21 | 舞台のおはなし

復活。


by kawasaki Alice